ドローン大辞典
マルチローター|用語解説|ドローン大辞典
概要
マルチローターとは、複数のローター(プロペラ)を高速回転させることで揚力を得て飛行するドローンの機体形式を指す。一般に「ドローン」と呼ばれている機体の多くがこの方式に該当し、垂直離着陸や空中停止が可能であることから、空撮、点検、農業、物流など幅広い分野で利用されている。
マルチローターの定義と特徴
マルチローターは、機体の外周に配置された複数のローターを用いて揚力を発生させる航空機である。基本的な飛行特性として、垂直離着陸、ホバリング、前後左右への移動、機首の回転が可能であり、滑走路を必要としない。
構造上は、複数のローター(一般に偶数)がそれぞれ独立して回転数制御され、姿勢や位置を安定させている。風の影響を受けやすいため、ジャイロセンサーやGNSSなどを用いたフライトコントローラーによる自動制御が不可欠である。
ローターの数によって呼称が分かれる。
4枚ローター:クワッドコプター
6枚ローター:ヘキサコプター
8枚ローター:オクトコプター
ローター数が多いほど冗長性が高まり、モーターやプロペラの一部が故障した場合でも姿勢を維持しやすくなる。また、一般にペイロードも増加する傾向がある。
飛行の仕組みと操縦原理
マルチローターは、各ローターの回転数を変化させることで運動を制御する。
上昇と下降は、すべてのローターの回転数を同時に増減させることで行う。前後左右の移動は、進行方向側のローターの回転数を下げ、反対側を上げることで機体を傾け、推力を斜め下方向に向けることで実現する。
旋回(ヨー方向の回転)は、時計回り(CW)と反時計回り(CCW)に回転するローター同士の反トルクバランスを意図的に崩すことで行われる。これにより、機体は水平方向に回転する。
他の航空機タイプとの比較
資料では、マルチローターを「飛行機(固定翼)」や「ヘリコプター(シングルローター)」と比較して以下のように整理しています。
特徴 | マルチローター | ヘリコプター(シングルローター) | 飛行機(固定翼) |
揚力発生 | 複数の小径ローターの回転 | 大径メインローターの回転 | 主翼と前進速度 |
効率 | ローター径が小さく効率は劣る | ローター径が大きく効率が良い | 揚抗比が良く、長距離・長時間飛行に有利 |
構造 | シンプル(可変ピッチ機構なし) | 複雑(スワッシュプレート等が必要) | 滑走路が必要(垂直離着陸不可) |
安定性 | 制御システムに依存 | 構造的にある程度の安定性 | 速度が出れば安定(失速に注意) |
主な用途 | 空撮、点検、短距離物流 | 重量物輸送、長時間農薬散布 | 広域測量、長距離監視 |
運用上の注意点
最大離陸重量が25kg以上となる大型マルチローターでは、慣性力が大きくなるため、加減速や上昇・降下に要する距離と時間が長くなる傾向がある。
また、離着陸時には地面効果の影響範囲が広がり、操縦が難しくなる。加えて、プロペラ径や出力の増大により騒音が大きくなるため、周囲環境への配慮が求められる。
主な活用分野
マルチローターは、その運動性能を生かして多様な分野で活用されている。農業分野では農薬や肥料の散布、センシングによる生育状況の把握に用いられる。物流分野では、急傾斜地における収穫物の運搬などに利用されている。
インフラ分野では、橋梁やダムの点検、トンネル内部などの狭小空間調査に適している。国家資格の実地試験においても、マルチローター特有の操作であるスクエア飛行、8の字飛行、GNSSが利用できない状況での飛行などが審査対象となっている。